週刊日記 旅行編(その1)
2006年7月2日
法事も無事に終わった後、ついでというわけでもないのですが、両親と三人で九州へ二泊三日の旅に 行ってきました。愛媛で育ちながら海を挟んだお隣の九州へはこれまで行ったことがなかったので、 わくわくの旅立ちです。最初は大分から宮崎に回り、高千穂経由で阿蘇に向かうという予定だったの ですが、直前になって九州で大雨が降り土砂災害も起きているというニュースを見て、急遽計画は 変更になってしまいました。 出発当日、朝六時に家を出て、高速道路で伊予西端の八幡浜まで向かいました。僕はゴールド免許 所持者にして純粋ペーパードライバーなので、この旅でも車のハンドルを握る予定はありません。 恐らく父と母が交互に運転することになるでしょう。ご苦労さまです。 港に到着して喫茶店で朝食。やがて到着したカーフェリーに乗り込むと、急いで二等客室に向かって 場所取りです。幸い、親子三人でごろ寝できるだけのスペースを確保できたので、無料で貸し出して くれていた毛布を借り、さっそく横になりました。前日は遅くまで仕事をしていたこともあり、 すぐにうつらうつらし始めたのですが、しばらくするとやけに船が揺れ始め、びくびくして目が覚めて しまいました。どうやら単に豊後水道に差し掛かって海流が強くなっただけだったらしいと分かったも のの、海と言えば波穏やかな瀬戸内海、という感覚で育った僕にはそれだけでも刺激が強すぎました。 出港して二時間三十五分後、無事に臼杵港へ到着。ここからまず最初に向かうのは臼杵石仏です。 まあ正直言って家族三人の誰もが大して興味も持っていなかったのですが、せっかく臼杵へ寄ったの だから、という理由で見物することになりました。やけに蒸し暑い中、車を降りて汗をだらだら垂らし ながら石段を登っていこうとしたその矢先、父が嫌なものを発見してしまいます。マムシ! いやあ、 マムシってあんなに小さかったんですね。どうも記憶の中でハブと混同してまして、せっかく目敏く 発見した父に対して、はぁ? という疑いの眼差しを向けてしまいました。が、その騒ぎに駆け寄って きた近所のオバちゃんたちも「マムシは小さい」と盛んに主張していたので、父への疑いはすぐに取り 下げました。そんなわけで、いつマムシが出てくるかと怯えながら見物していったので、石仏がどんな 感じだったのかあまり印象に残っていません。せっかく撮った記念写真も、後で確認してみると、 フラッシュに浮き上がるのは前面に立った僕たちの姿だけで、肝心の石仏の辺りは真っ暗でした……。 次に向かった先は高崎山。お猿で有名な高崎山です。全国的に有名な観光スポットなのかどうかは 分かりませんが、少なくとも僕はこの日まで全く知りませんでした。 入場してしばらく坂を登ると、いたいた、さっそくいました。生まれて間もないのでしょうか、可愛い 小さな小猿が、母猿と戯れています。近くの看板には「猿と目を合わさないで下さい」という難儀な 注意書きがあったので、さりげなく視線をそらしながらそっと近寄り、写真を一枚撮ります。 いい写真が撮れたなあと満足しながら更に坂を登っていったのですが、何も焦って写真を撮る必要が なかったことがすぐに分かりました。猿、猿、猿、見渡す限りの猿、猿、猿です。どうやら今の時期が 出産シーズンだったらしく、尻に小猿をしがみつかせてのし歩く母猿の姿が至る所にあります。 職員さんが猿にサツマイモをやるときなど、猿の群れが大集合して、もうそれはまさに猿の海です。 しかも、サツマイモを積んだリヤカーが登場したのを目にした途端、周囲にいた猿たちが興奮のあまり 糞や小便を洩らしやがり、うかつに歩くこともままなりませんでした。うーん、可愛いんだか可愛くな いんだか。山を下りるときはもうお腹一杯でした。 さて、そろそろ日も傾き掛けた中、宿泊地である別府に到着しました。まだ宿に向かうには早い時間 だったので、かの有名な別府地獄巡りに向かいます。えー……とりあえず、時間の都合もあって 竜巻地獄、血の池地獄、鬼山地獄、海地獄の四カ所だけを回ったのですが、僕的には鬼山地獄の 体長4.5メートルあるらしいワニが一番楽しめました。母は血の池地獄の足湯が気に入ったようで す。 この日の宿は、ホテルや旅館ではなく湯治宿です。旅行の計画が変更になり、急遽新しい宿をネット で探していたときに、たまたま見付けたこの宿を母がひどく気に入り、僕も湯治宿には興味があったの で、あまり乗り気でない父を二人で説得して予約の電話を入れたのでした。古い木造の二階建てで、 トイレと浴室は共同、普通の民宿と違うところは自由に使える台所があることでしょうか。あと、 別府ならではという点で、風呂は温泉、宿の敷地内に常に蒸気の吹き出る地獄釜があるのが特徴です。 さすがに自炊するつもりはなかったので、朝晩二食付きの宿泊コースにしてありました。まずは風呂で 一汗流した後、さっそく食事にしてもらいます。建物の前に木造の屋根付きテーブルがあり、まるで キャンプ場のように外で食べることができました。夕闇の中、吹き付けてくる涼しい風を浴びながら、 地獄釜で蒸した海産物を美味しくいただいていると、近所で飼われているのでしょうか、首輪をつけた 三毛猫が足下にやってきて、俺にもくれよー、と言わんばかりにじっと見上げてきます。 そのプレッシャーに負けて、まだ手を付けていなかった海老を小さくむしりながら猫の前に置いていく と、最初のうちは旨そうに食べていたのですが、やがて腹が膨れたのか飽きたのか、まだ三分の一は残 っているのに、ぷいと横を向いてどこかに消えていきます。おいおい、礼の一鳴きもなしかよ。しょん ぼりとその後ろ姿を見送り、足下に残ってしまった海老をどうしたものかと考えることになりました。 食事中にビールを二瓶ほど空けていたのですが、旅の疲れを癒してぐっすり眠るにはまだまだ足りねえ ということで、酒を求めて夜の湯治街に出て行くことになりました。あれですね、湯治場って猫が多い んですか? 途中で何匹も猫を見かけ、空き地で四匹ほどが集会をする姿も目にしました。 ヤングセンターというなかなか楽しげで賑やかな施設の前を通り、普通の酒屋を見付けて地元の焼酎を 購入。どこの宿の看板にも書かれている「かしま」って何だ? という父の疑問も、やがて「貸間」と 書かれた看板を発見することで無事に解消し、夜の散策を終えて宿に帰りました。宿の女将さんが用意 してくれていたペットボトル入りの地元の名水で焼酎を割って飲み、この日は早々に床に就くことに なりました。

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